なぜ防げないのか?相次ぐ熊襲撃の現場実態と生死を分けた瞬間
悲劇の現場には共通する残酷な地形的罠が存在する。鬱蒼としたササ薮、見通しの利かない沢筋の屈曲点、そして風下のブラインドスポット。犠牲者の多くは、相手の気配を察知した瞬間にはすでに数メートルの至近距離まで間合いを詰められていた。
時速50キロ。軽自動車並みの速度で藪を薙ぎ倒して突進してくる黒い塊を前に、人間ができる初動は極めて限られる。恐怖から背中を向けて全速力で逃走を試行した痕跡が残る現場では、ほぼ例外なく致命傷を負わされていた。逃げるものを追う肉食獣の本能を暴力的に刺激してしまうためだ。立ち塞がる斜面、足を取られる倒木。パニックに陥った人間の足取りはあまりにも脆い。
音はしなかったと生存者は一様に証言する。風の音と葉擦れに紛れ、巨躯が音もなく背後に忍び寄る。気付いた時には退路が断たれている。これが現場で起きている逃げ場なき殺戮の真実である。