極北に消えた冒険家を待ち続けた半世紀の真実——植村直己の妻・公子さんが遺した「愛と沈黙」の足跡
悲劇は突然訪れた。1984年2月12日、世界初となる冬期アラスカ・マッキンリー(現デナリ、標高6,190メートル)の単独登頂に成功。43歳の誕生日を迎えた直後だった。しかし、下山途中に交わした無線交信を最後に、彼の消息は途絶えてしまう。
日本中が騒然となり、連日テレビが捜索活動を報じる中、自宅に詰めかける報道陣の前に立った公子さんの姿は、痛々しいほど気高く、静かだった。取り乱すことなく、取り囲むカメラに向かって深々と頭を下げ、夫の生命力を信じ続けた。過酷な気象条件に阻まれ、捜索隊が遺体を発見できぬまま打ち切られたとき、彼女は夫がアラスカの大自然の一部になったことを、誰よりも早く、そして静かに悟ったのかもしれない。