最大多数の最大幸福は本当に正しいのか?功利主義の限界と現代的問題を徹底解説
功利主義の判断構造を極限状態で問う思考実験として、倫理学で最も著名なのが「トロッコ問題(暴走台車問題)」です。暴走するトロッコの先には5人の作業員がおり、レバーを引いて進路を変えれば別の線路にいる1人の作業員が犠牲になるという状況を想定します。
純粋な功利主義の立場に立てば、「5人の命を救うために1人を犠牲にする(5 > 1)」という選択が倫理的に正当化されます。失われる効用を最小限に抑え、残される効用を最大化することが計算上の正解となるためです。
しかし、バリエーションである「歩道橋の上の太った男を突き落としてトロッコを止める」というシナリオになると、多くの人が強い心理的抵抗を示します。数値上は「1人を犠牲にして5人を救う」という全く同じ構造であるにもかかわらず、道徳的直観が拒絶反応を起こすのです。これは、功利主義が人間の根源的な権利意識や「手段として利用されない権利(カント的義務論)」と衝突する決定的な証拠といえます。