鬼太郎誕生の裏に秘められた水木しげるの戦争とラバウル生還劇
彼は自らの体験にとどまらず、日本という国家が歩んだ狂乱と破滅の歴史そのものを描き出そうとした。『コミックSHOWA八十年』(『コミック昭和史』)は、その集大成とも言える重厚な大作だ。
庶民のささやかな暮らしが、足音もなく忍び寄る戦争の影に呑み込まれていく様を、彼は自分自身の成長記録と交差させながら緻密に描いた。教科書的な通史ではない。汗と埃、そして死臭の混ざり合う泥臭い人間模様。歴史のうねりの中で翻弄される個人を描く彼の視点は、常に弱者の側にあった。権力者が紡ぐ大文字の「歴史」に対する、市井の一漫画家による痛烈なカウンターであった。