歌舞伎の常識を壊した革命児・市川猿翁の真実と知られざる素顔
『ヤマトタケル』の成功に甘んじることなく、猿翁はさらなる高みへと跳躍した。中国の歴史絵巻に挑んだスーパー歌舞伎『新・三国志』シリーズである。舞台上に本物の滝を出現させ、何トンもの水が激しく客席前方へと飛散するなかで演じられる劉備、関羽、張飛の義の物語は、観客の皮膚感覚を直撃した。
東洋の美意識と現代のエンターテインメント技法が見事に融合した舞台は、日本国内にとどまらず海外公演でも熱狂的な支持を集めた。古典の手法を解体して再構築する猿翁の手腕は、単なる奇抜な演出ではない。根底には、観客を絶対に退屈させないという、演劇人としての凄まじい執念が渦巻いていた。