荒川静香トリノ金メダルから20年!イナバウアーと大逆転劇の真相
荒川静香の代名詞として2006年の流行語大賞にも選ばれた「イナバウアー」(上体を大きく後ろに反らせるレイバック・イナバウアー)。実は当時の新採点システムにおいて、この技単体には技術的な基礎点が設定されておらず、どれほど美しく決めても直接的な得点にはならない要素でした。
それでも彼女があの場面にイナバウアーを組み込んだのは、得点稼ぎに走るのではなく「自分らしい美しいフィギュアスケートを観客に届けたい」という表現者としての誇りがあったからです。プッチーニ作曲の歌劇『トゥーランドット』のアリア「誰も寝てはならぬ」のドラマチックな旋律に合わせ、身体を極限まで反らせて滑走した瞬間、パラベラ競技場の観客とジャッジの心を完全に鷲掴みにしました。得点には直結せずとも、演技構成点(PCS)の「音楽の解釈」や「パフォーマンス」の項目で絶大な加点効果を生み出したことは間違いありません。
また、世界中のファンを魅了した青と水色のグラデーション衣装にも緻密な計算がありました。多くの選手が選ぶ赤やピンクといった暖色系を避け、イタリア・トリノの冷涼で格式あるリンクの氷に映える鮮やかなブルーを採用。さらに胸元にあしらわれたビジューの配置や、ドレープが風を孕んで美しく広がるカッティングなど、荒川の長い手足とダイナミックなスケーティングを最大限に際立たせるためのこだわりが凝縮されていたのです。