なぜ「バールのようなもの」と呼ぶ?報道の裏側と元ネタの真相
事件現場の窓枠がひしゃげ、鍵が破壊されている。誰の目にもバールによる犯行に映る状況であっても、現場発表を行う警察幹部やテレビカメラの前に立つ記者は、決して「バールで壊された」とは口にしない。この慎重すぎる態度は、視聴者からすれば時に滑稽にすら映るが、報道基準の現場においては生命線ともいえる鉄則である。
理由は極めて明快だ。「現物が発見・特定されていない段階で断定してはならない」という原則があるからにほかならない。破壊痕がバールの形状と酷似していても、実際には先端を加工した特殊な鉄パイプや、車のホイールレンチ、あるいは大型のタガネが使われた可能性を100パーセント排除することはできない。もしニュースで「バール」と断定報道した後に別の器具だと判明すれば、誤報として報道機関の信頼は根底から揺らぐ。確証が取れるまでは「〜のようなもの」と表現を濁すことこそが、客観報道を保つための防壁なのだ。