ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』の戦慄の謎!ユダの正体と12使徒の真実
ダン・ブラウンの世界的ベストセラー小説『ダ・ヴィンチ・コード』の流行以降、ネット上やSNSでは今なお「ヨハネの位置に描かれているのは実はマグダラのマリアであり、キリストの妻だった」という都市伝説がまことしやかに語られます。しかし、美術史学および当時のルネサンス絵画の文脈から検証すると、この説には明確な反証が存在します。
第1に、「ヨハネが女性的に見える理由」です。フィレンツェを中心とするルネサンス期の図像学において、使徒ヨハネは「12使徒の中で最も若く、キリストに最も愛された弟子」として、髭のない優美な美青年として描くのが確立された伝統でした。ダ・ヴィンチの師匠であるヴェロッキオの工房をはじめ、当時の同時代画家たちの作品を見ても、ヨハネは一様に中性的な美少年として表現されています。
第2に、「登場人物の人数計算」です。もしヨハネの位置にいるのがマグダラのマリアだとすると、12使徒のうち誰か1人が抜け落ちていることになります。画面にはキリストを除いてきっちり12人の人物が描かれており、ダ・ヴィンチ自身が残した準備素描や手稿(メモ)にも、それぞれの使徒の名前が明記されています。
第3に、「聖杯(カリス)が描かれていない理由」を巡るオカルト的な憶測です。「食卓に聖杯がないのは、キリストの血を受け継ぐマリア自身が聖杯だからだ」という言説がありますが、ダ・ヴィンチが描いたのは前述の通り「裏切りの予告」の瞬間であり、聖杯を用いた「聖体拝領」の場面ではありません。テーブルの上には質素なパンと魚(ウナギのオレンジスライス添えとされる)、そして日常的なガラスのワイングラスが並んでいるのがダ・ヴィンチのリアリズムです。
また、「ペテロの背後から伸びる謎のナイフを持った手」が誰の手か分からないという不気味な噂もありましたが、修復後の精密調査により、ペテロ自身が右腕を不自然に後ろへひねってナイフを構えている解剖学的な描写であることが確定しています。後にゲッセマネの園で大祭司の手下の耳を切り落とすペテロの激昂しやすい性格を前もって暗示する、ダ・ヴィンチならではのキャラクター演出だったのです。