「塀のない刑務所」松山刑務所大井造船作業場の実態と脱走事件の全貌
開放型施設の理念を揺るがす重大事案となったのが、2018年4月8日に発生した平尾受刑者(平尾龍磨)の脱走事件です。
当時、友愛寮に収容されていた平尾受刑者は、作業場から忽然と姿を消しました。盗走車を使って愛媛県から瀬戸内海を渡り、広島県尾道市の「向島」へ逃走。空き家や別荘を転々としながら潜伏を続けました。島内には多数の警察官が投入され、ヘリコプターやドローン、警察犬を動員した大規模な捜索網が敷かれたものの、土地勘や生い茂る山林に阻まれ、捜索は難航を極めました。
逃走から22日後、平尾受刑者は海を泳いで本州側へ渡り、翌4月30日に広島市南区の路上で警察官職務質問を受け、身柄を確保されました。逃走期間は実に23日間に及びました。
取り調べによって明らかになった脱走の理由は、「寮内での人間関係の摩擦」と「職員からの厳しい指導に対する不満」でした。開放型施設ならではの自治組織の中で孤立感を深め、特権的な処遇を失うことへの焦りや精神的プレッシャーが重なったことが直接の引き金だったと供述しています。性善説に基づいた運営の盲点が浮き彫りになった瞬間でした。