イチローズモルト全種類の違いと定価一覧!入手困難の真相と選び方

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イチローズモルトの背後にあるドラマを知らずして、その液体を真に味わうことはできません。創業者である肥土伊知郎(あくと・いちろう)氏の足跡は、日本のクラフトウイスキーにおける不屈のフロンティア精神そのものです。

埼玉県秩父市で代々続く造り酒屋の家系に生まれた肥土氏は、東京農業大学で醸造学を学んだ後、サントリーでの営業職を経て実家の東亜酒造に入社しました。しかし、ウイスキー冬の時代が続いた2000年、経営難により同社は営業譲渡を余儀なくされます。その際、譲渡先の企業から下された決定は「ウイスキー事業からの撤退」と「羽生蒸溜所に眠る約400樽の原酒廃棄」という残酷な通告でした。

当時のインタビューで肥土氏は、「祖父や父、そして職人たちが何十年もかけて魂を込めて仕込んできた原酒を下水に流すことなど、どうしてもできなかった」と振り返っています。樽の引き取り先を求めて全国の酒蔵を駆け回り、門前払いを食らい続ける中で唯一手を差し伸べたのが、福島県郡山市の笹の川酒造でした。

原酒の保管場所を確保した肥土氏は2004年に株式会社ベンチャーウイスキーを設立。自らバーを何軒も回って原酒のテイスティングを依頼し、地道に販路を切り拓いていきました。そして2008年、自前の蒸溜所として念願の「秩父蒸溜所」を稼働させます。

夏は蒸し暑く、冬は氷点下まで冷え込む秩父盆地特有の厳しい寒暖差は、原酒と木樽の呼吸を促し、ウイスキーの熟成を驚異的なスピードで深めます。伝統的なスコットランドの手法を尊重しながら、ミズナラ材を用いた自社製発酵槽の導入や小規模蒸溜器の採用など、クラフトならではの妥協なき品質管理を徹底。その結果、秩父で生まれた原酒は瞬く間に世界のテイスターを熱狂させることとなりました。

中村 さくら

中村 さくら

マネー&キャリアエディター

エンタメ・カルチャー業界の深掘り取材を得意とし、現場のリアルな声をお伝えします。