海外で広がる最期の選択肢、安楽死薬が突きつける生と死の境界線
安楽死の容認論が一部で勢いを増す一方で、医療の根幹を担う国際機関は断固たる反対姿勢を崩していない。世界医師会(WMA)は長年にわたり、医師が患者の死を意図的に引き起こす、あるいは幇助する行為は医の倫理に根本から反するという宣言を採択し続けている。「害を与えてはならない」というヒポクラテスの誓いは、いかなる苦痛の緩和であっても命を断つ行為の免罪符にはならないという立場だ。
生命倫理学の領域でも、激しい議論が戦わされている。最大のリスクとして指摘されるのが「滑り坂論法」だ。当初は不治の末期がん患者などに限定されていた要件が、徐々に精神疾患患者や認知症の初期段階、さらには社会的弱者や高齢者へと拡大していく懸念である。「周囲に迷惑をかけたくない」「介護負担になりたくない」という社会的圧力が、見えない強制力となって死を選択させる構造的な危険性は、制度を導入した国々でも深刻な反省材料となっている。