映画『愛の亡霊』結末の真相と実話の闇|大島渚が描いた業を徹底考察
本作は完全な創作ではなく、明治20年代後半(1890年代)に栃木県の農村で実際に起きた殺人事件の記録が基盤になっています。
報道各社の資料や当時の裁判記録によると、実際に起きた事件でも、歳の離れた若い愛人と共謀した妻が車夫の夫を絞殺し、古井戸に死体を投げ込むという同様の手口が用いられました。その後、妻と青年は平然と暮らそうと試みたものの、夫の亡霊の噂が村中に広まり、精神的に耐え切れなくなった愛人が警察に自供したことで事件が発覚したと伝えられています。
大島渚監督がこの題材に魅了された最大の理由は、「なぜ犯行を隠蔽しきれず、自ら亡霊に怯えて破滅の道を歩んだのか」という点でした。近代国家へと歩みを進めていた明治期の日本において、底流に色濃く残っていたアニミズム的な恐怖や因果応報の観念。科学的合理主義では割り切れない日本人の深層心理を暴き出す舞台として、この実話は格好の素材だったのです。
映画化にあたっては、文学的な情緒を漂わせる脚本と、名キャメラマン・宮島義勇による圧倒的な自然光を活かしたキャメラワークが融合。単なる三面記事の猟奇事件を、普遍的な人間の悲劇へと見事に昇華させました。