マットの上の劇的な逆転劇から歳月が流れた。リオデジャネイロ五輪の金メダル獲得で見せたあの泥臭くも神々しいラスト数秒の粘りは、今も日本のスポーツファンの記憶に鮮烈に刻まれている。しかし、彼女のストーリーは選手生命の幕切れとともに終わったわけではない。
試合解説の現場において、彼女の言葉は常に的確だ。技の攻防における身体の使い方だけでなく、「今、相手選手がどのタイミングで息を整えようとしているか」「メンタルがどちらに傾いているか」といった、当事者しか知り得ない肉声に近い解説が特徴である。
「マットの上に立っていた頃は、自分の感覚だけで動いていた部分も大きかった。でも外から客観的に競技を見るようになって、レスリングというスポーツの持つ奥深さや、緻密な戦略の面白さに改めて驚かされるんです」と、彼女は過去のインタビューで語っていた。観客が気づかない微細な体の動きを瞬時に見抜き、それを平易な言葉で説明するスタイルは、ライト層のファンを惹きつける大きな原動力となっている。