皇居の秘境・桃華楽堂が魅せる奇跡の音響設計と今井兼次の独創
音楽堂の生命線は響きにある。だが、八角形という特異な多角形プランは、音響工学においては定在波や焦点現象(エコーの集中)を引き起こしやすい極めて危険な形状だ。今井兼次はこの難題に、前例のない独創的な手法で立ち向かった。
天井を見上げると、花弁を模した曲面が中央に向かってうねるように連続している。平行な壁面を徹底的に排除した設計は、音の跳ね返りを均一に拡散させるための緻密な計算によるものだ。さらに、外壁だけでなく内装の細部に至るまで施された凹凸のある装飾や陶片が、高周波の耳障りな反射を自然にいなし、豊かでまろやかな残響をつくり出す。電気的なアンプやスピーカーに一切頼ることなく、奏者の息づかいひとつ、弦の擦れる微細なタッチひとつが客席の隅々まで澄み渡る。今井は図面の上だけで設計したのではない。現場に何度も立ち、自ら手を動かし、空間そのものを楽器へと仕立て上げたのだ。