布を切り抜く陰影美、カットワーク刺繍が現代人を魅了する理由

話題沸騰中の 布を切り抜く陰影美、カットワーク刺繍が現代人を魅了する理由について、多角的な視点を分かりやすく掲載しています。

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切り抜く技法の歴史を紐解けば、ヨーロッパ各地で花開いた針仕事の多様性に圧倒される。イタリアのプント・タリアートに端を発した技法は、17世紀フランスで宰相の名を冠したリシュリュー刺繍へと昇華した。カットした空間に「バー(繋ぎ柱)」と呼ばれる補強糸を渡し、空間そのものをデザインの一部として強固に構築する技法は、まさに布の土木工学とも呼ぶべき完成度を誇る。

一方、北欧ノルウェーの伝統であるハーダンガー刺繍は、織り糸を規則正しく数えて抜き取り、幾何学的な格子模様を構築していく。ロンドンにあるヴィクトリア&アルバート博物館のテキスタイル収蔵庫には、数百年前に貴族の胸元や祭壇を飾った息を呑むような名品が保管されており、その緻密さは現代のテキスタイルデザイナーたちに今なお無尽蔵のインスピレーションを与え続けている。

アンティークレースや古布の世界的コレクターであるユキ・パリス氏が長年紹介してきた、名もなき女性たちの手仕事が放つ静謐な力強さも、現代の愛好家たちの指針となっている。時代や風土によって異なる糸の太さ、リネンの張り、ステッチの密度。その多様な遺産を学び直す動きが、今のクラフトブームの底流を支えている。

井上 凛

井上 凛

シニアコンテンツプロデューサー

心身ともに健康で持続可能なライフスタイルをテーマに、最新のウェルネストレンドを発信中。