安倍晋三の父・安倍晋太郎の宿命と孤愁、息子へ託した遺言とは
安倍晋太郎という政治家を語る際、多くの人が思い浮かべるのは端正な顔立ちと洗練された物腰だろう。だが、その華やかな表舞台の裏には、苛烈な運命との不断の戦いがあった。
戦前の大政翼賛会に敢然と異を唱えた「反骨の政治家」安倍寛の長男として生まれた晋太郎は、若き日に過酷な運命を経験している。特攻隊員として出撃を目前に控えるなかで終戦を迎え、命を拾った原体験。この生と死の狭間をくぐり抜けた記憶こそが、彼の政治行動の根底にある「平和への希求」を形作った。毎日新聞の政治記者を経て政界へ打って出た晋太郎は、スマートな見かけとは対照的に、一度決めたら退かない猛烈な頑固さと、義理を重んじる情熱を併せ持っていた。
関係者の証言によれば、私生活での晋太郎は極めて無口で、家庭に政治の話を一切持ち込まない父親だったという。だが、酒が入ると国家の行く末を熱く語り、時には若手議員の面倒見の良さから「晋太郎のためなら命を捨てる」と公言する熱狂的な支持者を数多く生み出した。孤独な覚悟を胸に秘めたその人間味こそが、彼を単なるエリート以上の存在に押し上げたのである。