『君たちはどう生きるか』岩波文庫が選ばれる理由と漫画・映画との違い
文庫本としての完成度を別格のものにしているのが、岩波文庫版の巻末に収録されている政治学者・丸山真男による解説「『君たちはどう生きるか』をめぐる回想」です。この解説を読むためだけに岩波文庫版を買い求める研究者や読書家も少なくありません。
吉野源三郎と親交の深かった丸山真男は、本作が刊行された1937年という時代背景を克明に証言しています。当時、軍国主義が急速に強まり言論統制が厳しさを増す中、知識人たちは自由主義やヒューマニズムの思想を正面から語ることができなくなっていました。その検閲の網をくぐり抜け、次世代を担う子どもたちに「自分の頭で考え、真理を求める姿勢」を手渡すために選ばれた形態が、児童文学だったのです。
この歴史的背景を知ることで、本作が単なる道徳的な教訓本ではなく、暗黒の時代に対する吉野源三郎の決死の抵抗の書であったことが浮き彫りになります。作品の持つ切迫感と強靭な思想性を理解する上で、丸山真男の解説は不可欠なピースとなっています。