「左様でございます」は正しい?時代劇の台詞とビジネス敬語の深層
言葉の成り立ちを紐解くと、その本質は驚くほどシンプルだ。「左様」は本来、指示代名詞の「さ(然)」に名詞の「様(よう)」が結びついた「然様」という表記に由来する。「その通りである」「そのような状態」を指し示す指示表現が、時代を経て相手の発言に同意する感動詞・応答詞へと純化していった。漢字の「左」が当てられたのは中世以降の当て字であり、左という方角自体に特別な意味が込められているわけではない。
昭和から平成にかけて日本語の美しさと構造を追究した国語学者・金田一春彦は、日本語学の著作のなかで、日本人が相手との心理的摩擦を避けつつ調和を保つための「緩衝材」として発達させた応答表現の変遷を鋭く指摘している。「然り」という簡潔すぎる肯定から、語尾を柔らかく包み込む「さよう」への移行は、相手への敬意と距離感を同時に保つための言語的知恵であった。国立国語研究所のアーカイブや各種言語資料を見ても、近世の武家社会や上方商人たちの間で、格式ある公の応答として定着していった経緯が克明に記されている。