広瀬すず『海街Diary』撮影秘話と四姉妹の現在|台本なしの奇跡
映画『海街diary』において最大の難関とされていたのが、物語の核となる四女・浅野すず役のキャスティングでした。原作の吉田秋生が描くすずは、父親の不倫相手の子でありながら、どこか凛とした佇まいと孤独、そして瑞々しい躍動感を併せ持つ極めて複雑な少女です。この難役に挑むため、大規模なオーディションが開催されました。
当時15歳(中学3年生から高校1年生への過渡期)だった広瀬すずが会場に入ってきた瞬間、審査にあたっていた是枝裕和監督の直感が働いたと後の対談や手記でも明かされています。監督は彼女の醸し出す空気感、ふとした瞬間に見せる陰影のある眼差しに強く惹かれ、「彼女しかいない」と即決に近い形で起用を決めました。
撮影現場において、是枝監督はかつて『誰も知らない』や『奇跡』などで用いた独自の演出手法を取り入れました。それは「広瀬すずにだけ台本を渡さない」という手法です。彼女には事前にセリフを覚えさせず、現場で監督が耳元で状況やセリフを口頭で伝え、その場で相手役と掛け合いをさせることで、作られた芝居ではない「生きた言葉とリアクション」をフィルムに焼き付けました。
広瀬自身も当時のインタビューで「台本がないことで、余計な先入観を持たず、姉たち(共演者)の目を見て素直に言葉を返すことができた」と振り返っています。この演出こそが、映画冒頭のぎこちない少女が徐々に鎌倉の街と家族に溶け込んでいくドキュメンタリーのような生々しいリアリティを生み出す原動力となりました。