アインシュタインのノーベル賞はなぜ相対論で見送り?受賞理由と賞金の罠
ノーベル賞の受賞にまつわるもうひとつの強烈な人間ドラマが、巨額の賞金の行き先です。1922年に支払われたノーベル賞の賞金総額は12万1572スウェーデン・クローナ。現在の貨幣価値に換算するとおよそ4000万〜5000万円前後に相当する大金でした。しかし、この大金はアインシュタインの口座に留まることはありませんでした。全額が最初の妻であるミレヴァ・マリッチへと送金されたのです。
チューリッヒ連邦工科大学の同窓生だったミレヴァは、極めて優秀な物理学者・数学者であり、若き日のアインシュタインの研究を支えた共同制作者とも言える存在でした。しかし、二人の結婚生活は性格の不一致やアインシュタインの従姉エルザとの親密な関係によって完全に破綻します。
1919年に結ばれた離婚協議書には、耳を疑うような条項が記されていました。
「将来、もし自分がノーベル賞を受賞した場合、受け取る賞金の全額をミレヴァに譲渡する」
当時まだ受賞が決まってもいない賞を担保にして離婚を成立させるという、常軌を逸した賭けでした。自らの才能が必ずノーベル賞を獲るという絶対の自負と、何としても離婚してエルザと再婚したいという焦燥感が透けて見えます。
賞金を受け取ったミレヴァは、チューリッヒ市内に3棟のアパートを購入し、不動産収入で生計を立てました。しかし、次男エドゥアルトが統合失調症を発症したことで莫大な医療費が必要となり、晩年の彼女は不動産を売却しながら過酷な経済的困窮の中で息を引き取ることになります。ノーベル賞の栄光の裏には、科学の歴史から名前を消された一人の女性の悲劇が横たわっていました。