音楽の「ピッチ」とは?音程やキーとの違いとズレる原因を徹底解明
どれほど耳の良い人間であっても、実際に歌ったり楽器を演奏したりするとピッチが不安定になる現象が起きます。レコーディング現場やボイストレーニングの現場を取材すると、ピッチが外れる原因は「音感の欠如」ではなく、生理学的・音響心理学的なメカニズムの不具合にあることが分かります。
最大の原因は、「気導音(外から耳に入る音)」と「骨伝導音(頭蓋骨を伝わって内耳に直接響く音)」の音響干渉です。歌唱時、人間は自分の声を主に骨伝導で聴いています。骨伝導は低音域を強調して伝える性質があるため、脳内では「太く安定したピッチ」として知覚されていても、実際に口から放射されて空間を伝わる空気振動は狙いより数Hz〜数十Hzぶら下がっている(フラットしている)ケースが頻発します。レコーディングスタジオでプロ歌手が片耳だけヘッドフォンを外したり、インイヤーモニターの遮音性を徹底調整したりするのは、この内外の知覚ギャップを相殺するためです。
もう一つの核心的要因が、喉内部の筋肉の拮抗バランス崩壊です。発声においてピッチを上げる役割を担うのは、声帯を前後に引き伸ばして薄く張る「輪状甲状筋(CT筋)」です。一方で声帯を太く閉じるのは「甲状披裂筋(TA筋)」が担当します。高音域に移行する際、息の圧力(呼気圧)だけで力任せに押し出そうとすると、喉周辺の懸垂筋群が過緊張を起こし、CT筋のスムーズな伸展が阻害されます。その結果、目標の周波数まで声帯の振動数が届かず、「高音で決まってピッチが低くなる」という典型的なトラブルが発生します。