神に呼ばれた者しか辿り着けない天河大弁財天社の真実と五十鈴
天河の歴史を紐解く上で、山岳信仰の開祖である役行者(えんのぎょうじゃ)の存在を外すことはできない。白鳳年間、大峯山の霊峰で過酷な修行を重ねた役行者が感得した弁財天の神気が、この社の創始と伝えられている。祀られている主祭神は、宗像三女神の一柱である市寸島比売命(いちきしまひめのみこと)だ。水の神であり、美と弁舌、財福を司る神格である。
特筆すべきは、神仏習合の思想が今も生々しく息づいている点にある。明治期の神仏分離令によって全国の多くの霊場が分断を余儀なくされたが、天河の地では神道・修験道が互いの境界を融解させながら共存してきた。山伏の吹く法螺貝の重低音と神職が奏上する祝詞の清らかな調べが同じ境内に溶け合う光景は、日本古来の信仰の原形をそのまま現代に留めている。