老舗のまな板から水産業界の構造を覆す――デジタルと包丁を武器に走る異色跡継ぎの勝算
事業承継を巡る親子の確執は、中小企業における最大の鬼門とされる。寿商店も例外ではなかった。一代で会社を築き上げたカリスマである父・森嶢至氏と、データを武器に組織改革を推し進めようとする朝奈氏。現場での意見の衝突は日常茶飯事だった。
「昔からのやり方で通用してきた」と自負する先代に対し、娘は言葉ではなく数字で反論した。新規顧客の獲得コスト、EC比率の向上、客単価の推移。ファクトを積み上げながらも、父が何より重んじる「仕入れの目利き」と「客への人情」には最大の敬意を払い続けた。
変えるべきは仕組みであり、守るべきは創業の精神。この線引きが明確になったとき、親子の摩擦は強固な推進力へと反転した。老舗の看板を背負いながら自己否定を恐れずに走る彼女の姿勢は、後継者不足に悩む全国の中小企業経営者にとって生きた教科書となっている。