土に刻む物語と線描の詩学:陶芸家・長谷川風子が放つ独自の魅力と作品世界
長谷川風子の作品を象徴する最大の技法が「掻き落とし(Scraffito)」である。これは陶芸の古典的な美飾技法の一つであり、非常に手間と集中力を要する作業だ。
素地の成形後、まだ湿り気のある粘土の表面に異色の化粧土(泥しょう)を塗り重ねる。表面の化粧土が半乾きの状態になった瞬間を見極め、針やニードル、細い彫刻刀のような道具を用いて手作業で表面を削り取っていく。削られた部分からは下地の土色が露出し、残された部分が線や面として浮かび上がる。
この工程においてやり直しは一切きかない。ひとすじの線の太さ、削る深さの微細な違いが、作品全体の表情を決定づける。素地の土と化粧土のエッジが滑らかに交わる触感は、印刷物や絵付け磁器には決して真似できない立体的な質感を生み出している。