お市の方は本当に戦国一の美女か?肖像画と史料から暴く美貌の真相

お市の方は本当に戦国一の美女か?肖像画と史料から暴く美貌の真相とはどんな影響があるのか? 主要なファクトを簡潔に解説します。

「戦国一の美女」という評判を耳にして、高野山持明院に伝わる有名な「お市の方の肖像画」を閲覧した読者の多くは、少なからず拍子抜けしたような感覚を覚えます。そこに描かれているのは、細く切れ長の目、ふっくらと丸みを帯びた下膨れの輪郭、お歯黒を施し、眉を剃り落として額の高い位置に眉を描いた(置眉)姿だからです。

このギャップが生じる背景には、中世・近世日本における絵画の様式と美の概念が深く関係しています。当時、高貴な身分の女性を描く際は、個人の特徴を写実的に描くことよりも、平安時代以来の伝統である「引目鉤鼻」の貴族様式に則って描くことが礼儀とされていました。つまり、現存の肖像画は「ありのままの素顔のスナップショット」ではなく、最高位の武家貴婦人としての格式を表す記号化されたフォーマットに則った肖像だったのです。

さらに、戦国時代において「良家の美女」と見なされる条件は、現代のトレンドとは大きく異なっていました。

  • ふくよかな顔立ちと豊かな肉付き:飢饉や戦乱が日常茶飯事だった時代、痩せぎすの体躯は貧困を連想させました。豊かな頬と肉付きの良い体型は、裕福で高貴な生まれを象徴する最大の美徳でした。
  • 透き通るような白肌:過酷な農作業や野外活動と無縁であることを示す、白粉(おしろい)による抜けるような白い肌が必須条件でした。
  • 艶やかな黒髪:「髪は烏の濡れ羽色」と称されるように、手入れの行き届いた長く美しい黒髪が女性の魅力を決定づけていました。

近年では、兄である織田信長の骨格推定や同時代の肖像画をベースに、最新の3Dグラフィック技術を用いて「もしお市の方が現代メイクを施したら」というCG復元を試みるクリエイターや研究者の検証も行われています。その結果、信長に共通するシャープな鼻梁、大きな瞳の切れ長なアーモンドアイ、左右対称の引き締まった顎のラインが浮き彫りとなり、現代のファッション誌の表紙を飾るトップモデルと比較しても全く見劣りしない洗練された骨格構造を持っていた可能性が極めて高いと指摘されています。

前田 葵

前田 葵

サステナビリティ研究家

マーケティングと消費者心理のトレンドを分析し、現代のヒット商品の背景を読み解きます。