メトロポリタン美術館の青いカバ「ウィリアム」の正体と愛される理由
ウィリアムが制作されたのは、古代エジプト中王国時代・第12王朝(紀元前1961年〜紀元前1878年頃)、センウセルト1世からセンウセルト2世の統治期と推定されています。上エジプトのメイア(Meir)にある地方貴族センビ2世の墓から1910年に発掘され、1917年に大富豪エドワード・S・ハークネスの寄贈によってメトロポリタン美術館の所蔵となりました。
当時のエジプト人にとって、カバは極めて複雑な二面性を持つ存在でした。巨大な体と強烈な顎を持つオスのカバは、舟を転覆させたり農作物を荒らしたりする危険な害獣であり、悪神セトや混沌の象徴として恐れられていました。一方で、子を守るメスのカバは多産と母性の象徴とされ、出産を司るタウエレト女神として信仰されていたのです。
墓にカバ像を副葬する行為には、その絶大な生命力を死者に分け与える意味がありました。しかし同時に、死後の世界でカバが暴れ出して埋葬者を襲わないよう、出土時には4本のうち3本の脚が意図的に折られて魔力封じが施されていたという生々しい痕跡も残されています。現在美術館で鑑賞できる健全な姿は、展示のために専門家によって丁寧に修復されたものです。