宿敵ボルトを倒した男の光と影|ジャスティン・ガトリンが陸上界に残した「真の遺産」と2026年の再評価
2017年の世界陸上ロンドン大会男子100メートル決勝。スタジアムを埋め尽くした満員の観客が求めていたのは、引退レースとなるウサイン・ボルトの華々しいフィナーレだった。しかし、一番にフィニッシュラインを駆け抜けたのは、コース端の第8レーンを走った35歳のガトリンだった。タイムは9秒92。
ウイニングランで彼を待ち受けていたのは、祝福の大歓声ではなく、地鳴りのようなブーイングだった。だがガトリンは、レーン上で見物人を煽るポーズを取ることもなく、ただ静かにボルトの前で膝をつき、頭を下げた。あの瞬間、陸上競技史上に残る「最も複雑で、最も劇的なドラマ」が完結した。勝利の栄光と世間の非難を同時に背負う覚悟を持った男の姿が、そこにあった。