クールベ『世界の起源』の真相|モデルの正体と130年の封印を解く

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絵画に顔が描かれていないことから、美術史家たちの間では長年にわたりクールベ 世界の起源 モデルを巡る白熱した議論が戦わされてきました。有力視されていたのは、クールベの長年の愛人であり弟子でもあったアイルランド出身の女性ジョアンナ・ヒファーナン(ホイッスラーの愛人としても有名)でした。しかし、彼女の燃えるような赤毛と、絵画に描かれた豊かな黒々とした体毛との明白な差異が、常に決定的な疑問符として残されていました。

この150年に及ぶ謎に終止符が打たれたのは2018年のことです。フランスの文芸史家クロード・ショッパー氏が、文豪アレクサンドル・デュマ・フィス(小デュマ)と女性作家ジョルジュ・サンドとの間で交わされた膨大な往復書簡の草稿を校訂していた際、決定的な記述を発見しました。小デュマがサンド宛てに書いた手紙の一節に、これまで判読ミスとされていた誤植を見出し、そこにはハリル・ベイの元愛人であり元パリ・オペラ座のバレエダンサーであった女性の名前が記されていたのです。

その女性こそがコンスタンス・ケニオー(Constance Quéniaux)でした。彼女は1834年生まれで、クールベが本作を描いた1866年当時は32歳、オペラ座を引退してハリル・ベイの庇護のもとで高級娼婦(クルティザンヌ)としてパリの社交界に君臨していました。この発見を裏付けるように、1908年にケニオーが死去した際の遺品目録からは、クールベが描いた豪華な『赤と白の椿の花束』の油彩画が見つかっています。椿の花は小デュマの小説『椿姫』に象徴される通り、当時のクルティザンヌを象徴する花であり、彼女とクールベ、そしてハリル・ベイの親密な三角関係を雄弁に物語る決定的な物証となったのです。

橋本 菜々子

橋本 菜々子

トレンドリサーチャー

グルメと旅を愛するフリーライター。全国各地の隠れた魅力を独自の視点から紹介します。