ナンシー・フレイザー思想の核心|承認と再配分、ケアの危機を読み解く
フレイザーが近年の著作『食い尽くす資本主義(Cannibal Capitalism)』などで繰り返し警告しているのが、「社会的再生産(Social Reproduction)の危機」、すなわち「ケアの危機」です。
資本主義経済が工場やオフィスで利益を生み出すためには、労働者を日々回復させ、次世代を育て、共同体を維持する「ケア労働(育児・介護・家事・感情労働)」が不可欠です。しかし、資本主義はこの再生産領域を「無償の自然資源」のように扱い、そのコストを家庭や周縁化された女性たちに押し付けてきました。
共働きが常態化し、福祉国家が解体されて市場原理が浸透した現代において、ケアに割く時間とエネルギーは枯渇しています。資本主義は、自らの存続を支えている社会的生命線そのものを食い尽くすという自己破壊的な構造矛盾を抱えている――このフレイザーの指摘は、少子高齢化と介護崩壊に直面する日本社会の病理を正確に言い当てています。