映画『音楽』の鬼才・岩井澤健治の現在地|7年投じた執念と新作の全貌
本作の視覚的アイデンティティを決定づけたのが、岩井澤健治が選択したロトスコープという手法です。ロトスコープとは、あらかじめ実写で撮影した役者の動きを1コマずつトレースしてアニメーション化する古典的な技法を指します。しかし、映画『音楽』におけるそれは、一般的なリアリズム追求のロトスコープとは根本的に思想が異なっていました。
大橋裕之特有のシンプルな記号的キャラクターを、生々しい人間の骨格や筋肉の動きと衝突させる。この一見矛盾する配合が、奇跡的なユーモアと熱狂を生み出しました。特にクライマックスとなる野外フェス「ロックフェス」のシーンでは、実際に廃校や野外ステージを借り切って大規模な実写ライブ撮影を敢行。演奏者の指の動き、観客の無秩序な揺らぎ、ドラムの振動を、気が遠くなるようなペインティング作業によってアニメーションへと昇華させました。