ハリー・ポッターと歩んだ小野賢章の軌跡|12歳抜擢の真相と声変わりの葛藤
12歳で始まったハリー役の旅路において、最大の試練となったのが思春期における声変わりでした。第3作『アズカバンの囚人』(2004年)から第4作『炎のゴブレット』(2005年)にかけて、小野の身体と喉には急激な変化が訪れます。
声優業界において、海外映画の長期シリーズで子役が声変わりを迎えた場合、役のイメージを保つために大人の女性声優や別のキャストへ交代することは決して珍しくありません。小野自身も当時の特番インタビューや手記において、「毎回の収録を迎えるたび、自分の声が昨日と違っていることに怯え、次の作品ではキャストを変えられるのではないかという強烈な恐怖と孤独を抱えていた」と赤裸々に吐露しています。
思うようにコントロールできない声帯に悩み、録音ブースで何度もテイクを重ねる苦闘のなか、彼を救ったのは音響監督との緻密なセッションと、奇跡的なまでの「運命の合致」でした。スクリーンの中のダニエル・ラドクリフもまた、全く同じペースで大人の男性へと声変わりを遂げていたのです。
スクリーンの向こうで大人になっていくダニエルと、マイクの前で背伸びをしながら苦闘する小野賢章。二人の身体的成長が完全に同期したことで、吹き替え特有の違和感は消え去り、ハリーが直面する思春期の苛立ちや葛藤、そしてダークな運命に立ち向かう青年の苦悩が、小野の低くかすれたリアルな肉声と完璧に溶け合いました。結果として、足かけ10年・全8作を同じキャストで完走するという、洋画吹替史上でも稀有な金字塔が打ち立てられたのです。