なぜ「狼の口」が応援に?Bocca Al Lupoの由来と正しい返し方
イタリア語で日常的に交わされるbocca al lupoの意味は、英語でいう「Break a leg(直訳:足を折れ=成功を祈る)」や日本語の「当たって砕けろ」に近い、逆説的な応援フレーズです。bocca al lupoの発音(カタカナ表記)は「イン・ボッカ・アル・ルーポ」。「In(〜の中に)」「bocca(口)」「al lupo(狼に)」という単語で構成されています。
なぜ「狼の口の中」という危険極まりない状況が励ましになるのか、そのIn bocca al lupoの由来にはイタリアの言語学者や文化人類学者の間でも大きく2つの有力な説が存在します。
第1の説は、中世の狩猟文化と「魔除け(反語的表現)」に由来する説です。かつての羊飼いや猟師にとって、狼は家畜を襲い命を脅かす最大の敵でした。危険な狩りに出る仲間に対し、「狼の口の中に飛び込んで無事に生還せよ」という過酷な試練をあえて口にすることで、魔物を油断させ、逆説的に無事と大猟を祈願したという背景です。直接的な幸運を口にすると悪魔に嫉妬されるという地中海世界の土着信仰が色濃く反映されています。
第2の説は、古代ローマ建国神話に登場する「ロムルスとレムスを育てた母狼(Lupa Capitolina)」に由来する説です。母狼は自らの口で子犬(あるいは人間の赤子)をくわえて外敵から守り、安全な巣穴へと運びます。この神話的コンテキストにおいて、「狼の口の中に入る」ことは「母狼の手厚い庇護下に置かれる」ことを意味し、絶対的な安全と成功を象徴しているという解釈です。
イタリア言語界の最高権威であるクルスカ学会(Accademia della Crusca)の文献調査でも、この2つの解釈は長年議論の対象となってきましたが、どちらの背景を知るにしても、根底にあるのは「困難に立ち向かう者への強い守護と激励の念」であることに変わりありません。