サッチャー元首相の功績と影|「鉄の女」の真実と2026年の再評価
「サッチャーリズム」とは、第二次世界大戦後に定着していたケインズ主義的な国家介入(「ゆりかごから墓場まで」と呼ばれる社会保障制度や基幹産業の国有化)を解体し、フリードリヒ・ハイエクやミルトン・フリードマンが提唱した新自由主義(ネオリベラリズム)を国家運営の基本原理に据えた思想・政策体系を指します。具体的には、減税による勤労意欲の向上、公的支出の削減、徹底した規制緩和、そして国営企業の民営化を三位一体として推し進めました。
政府保有資産の売却は目覚ましい規模で実行され、英国通信(BT)、ブリティッシュ・ガス、ブリティッシュ・エアウェイズ、さらには水道や電力、鉄鋼といった巨大産業が次々と民間市場へと開放されました。株式の公開を通じて一般市民に株主となる道を開き、「大衆資本主義」の実現を謳ったのです。
この新自由主義革命を成し遂げるうえで、避けて通れなかった最大の障害が、絶大な政治的影響力を誇っていた労働組合でした。サッチャーは、1970年代に歴代政権を退陣に追い込んできた労働組合を「内部の敵」と位置づけ周到な準備を進めます。石炭火力発電所にあらかじめ十分な石炭を備蓄し、組合法を改正してピケッティング(スト破り阻止行動)を厳格に違法化したうえで、1984年に採算の合わない20炭鉱の閉鎖を発表しました。
これに反発した全米炭鉱労働組合(NUM)のリーダー、アーサー・スカーギルは全土で無期限ストライキを敢行。しかし、サッチャー政権は警察部隊を総動員してストライキを武力同然に抑え込み、1年におよぶ凄惨な消耗戦の末に炭鉱組合を完全降伏に追い込みました。この勝利によってイギリスの労働運動は壊滅的な打撃を受け、政権の規制緩和路線は不可逆のものとなったのです。