水戸黄門2代目はなぜ西村晃?悪役から名君へ大抜擢の真相と知られざる生涯
1983年秋、TBSナショナル劇場の看板番組『水戸黄門』が14年の節目を迎えた際、初代・水戸光圀を演じた東野英治郎の勇退に伴い、芸能界最大の関心事は「2代目を誰が継ぐのか」に集中しました。森繁久彌や三船敏郎といった映画界の重鎮の名が取り沙汰される中、正式発表された名前は西村晃。当時の新聞テレビ欄や週刊誌には「まさかの悪代官が黄門様に」「茶の間の善玉を悪党スターが演じられるのか」と懐疑的な見出しが躍りました。
実は西村晃と『水戸黄門』には、運命とも言える強烈な因縁が存在していました。1969年8月4日に放送された記念すべき第1部・第1話「栃の木垣のうた(水戸)」において、西村晃は水戸藩の専横を極める悪家老・藤井紋太夫役としてゲスト出演していたのです。劇中では初代・東野黄門に悪事を暴かれ、無念の切腹を命じられた張本人でした。つまり、かつて黄門様に成敗された悪役の首魁が、14年の歳月を経て黄門様その人に転生するという、テレビ史上に残る大逆転人事でした。
この大抜擢を主導したのが、ナショナル劇場の生みの親であり、オフィス・ヘンミを率いた名プロデューサー・逸見稔です。逸見プロデューサーは後年の自著やインタビューにおいて、「初代と同じ路線の役者を据えても、東野英治郎の偉大な影に押し潰されるだけだ。善人を演じさせたら日本一巧い役者ではなく、人間の狡さや恐ろしさを骨の髄まで演じ切れる名優に、究極の善を演じてもらいたかった」と述懐しています。
制作陣の狙いは見事に的中しました。西村晃が画面に現れた瞬間、それまでの悪役イメージを覆す気品あふれる銀髪と、物腰柔らかな佇まい、そして悪人を前にした時に見せる眼光の鋭さが、新たな視聴者層を獲得。第14部の初回視聴率は25.1%(ビデオリサーチ・関東地区)を記録し、放送期間を通じて最高視聴率30%超えを連発するなど、交代劇は大成功を収めました。