チャレンジャー号爆発事故の真相|73秒後の悲劇と組織が隠した警告
チャレンジャー号の悲劇における最も恐るべき側面は、「事故が起きる可能性が事前に極めて明確に予見されていた」という点です。打ち上げ前夜、固体ロケットブースターの製造元であるモートン・サイオコール社のエンジニア、ロジャー・ボジョレー氏やボブ・エベリング氏らは、NASA幹部との緊急電話会議で「気温が華氏53度(約11.7度)以下での打ち上げは絶対に避けるべきだ」と涙ながらに発射延期を訴えていました。
過去の飛行データからも、低温時ほどOリングの侵食(ガス漏れによる熱損傷)が深刻化することが判明していました。しかし、商業衛星の打ち上げ遅延や、同夜に予定されていたレーガン大統領の一般教書演説に打ち上げ成功のメッセージを間に合わせたいという政治的思惑から、NASAのマネジメント層は強烈な不快感を示しました。
「サイオコール社よ、来年の4月まで打ち上げるなとでも言うつもりか」「頼むからエンジニアの帽子を脱いで、マネジメントの帽子をかぶってくれ」——会議の席上で浴びせられたこの言葉により、サイオコール社の経営幹部は技術者たちの反対を押し切り、打ち上げ承認のサインに署名しました。社会学者ダイアン・ヴォーン氏が後に「逸脱の正常化(Normalization of Deviance)」と命名したこの現象は、過去に危険な兆候がありながらも壊滅的な事故に至らなかった経験が積み重なることで、次第にリスクを「許容範囲内」と誤認していく組織の致命的な病巣を浮き彫りにしました。