日比谷線脱線事故と麻布高生・富久信介さん|奪われた命が変えた安全基準
詳細を見る
この凄惨な事故で最も若い犠牲者となったのが、港区の私立麻布高校2年生だった富久信介さん(当時17歳)でした。信介さんは学業優秀で友人思い、将来に対する高い志を抱き、家族からも深く愛されていた心優しい青年でした。当日は期末試験の最終日に向かう途中で、通学定期券を握りしめたまま事故に巻き込まれました。
一瞬にして愛息を理不尽に奪われた父・富久邦彦さんをはじめとするご家族の絶望は、筆舌に尽くしがたいものでした。変わり果てた息子の姿と対面した日から、遺族の日常は一変します。「なぜ信介が死ななければならなかったのか」「命を預かる鉄道会社は防げなかったのか」という拭いきれない疑問が、遺族を突き動かしました。
富久邦彦さんは深い悲しみに沈み続けるのではなく、原因究明と鉄道の抜本的な安全対策を求める活動の先頭に立ちました。「息子の命を無駄にしてはならない」「二度と同じ思いをする遺族を生み出してはならない」という強い信念が、その後の頑なな鉄道行政を動かす起点となったのです。