天才・笹井芳樹の遺産とStap騒動の真相、立体網膜が拓く未来
日本の再生医療を語る上で、ノーベル賞受賞者である山中伸弥氏の存在を避けて通ることはできない。山中氏が開発したiPS細胞は、遺伝子導入によって細胞の時計を巻き戻す「人工的な初期化」のアプローチだった。対して笹井氏のアプローチは、細胞が本来秘めている空間認識力と集合的な自律性を引き出す「発生の再現」にあった。
工学的なロジックでブレイクスルーをもたらした山中氏と、生命の詩的な振る舞いを愛しその自発性を解き明かした笹井氏。対照的な両輪の知性は、決して対立するものではなかった。現在、iPS細胞から複雑な三次元臓器(オルガノイド)を作り出す先端研究は、山中氏の細胞ソースと笹井氏の立体組織化理論が融合することで初めて成り立っている。2つの異なる才能が交わった場所に、再生医療の地平が拓かれている。