孤立の時代を射抜く知の巨人・山崎正和!今こそ響く思想と劇作の核心
山崎正和のキャリアを語る上で欠かせないのが、若き日に執筆した世阿弥 (戯曲)である。1963年、劇団俳優座によって初演された戯曲『世阿弥』は、能を大成させながらも権力に翻弄され、老境にして佐渡へ流された天才の孤独と美意識を圧倒的な密度で描き出し、岸田國士戯曲賞を受賞した。歴史の激流に立ち向かう個人の実存を舞台上に屹立させたこの作品は、現代演劇・舞台芸術界に計り知れない衝撃を与え、演劇が単なる娯楽を超えた哲学的探求の場であることを証明した。
劇作家としての実践と並行して、彼の思索は文明論へとダイナミックに展開していく。その頂点に位置するのが、1984年に刊行された名著『柔らかい個人主義の誕生』だ。高度経済成長を遂げ、消費社会へと移行する日本において、山崎は物質的な豊かさの先にある「成熟した個のあり方」を予見した。硬直した集団主義でも、自己中心的な孤立でもない。他者との程よい距離感を保ちながら、審美的な趣味や社交を楽しむ柔軟な個人――彼が提示したこのビジョンは、均質化と孤立の狭間で揺れる現代社会の病理を、驚くほど正確に見抜いていた。