母乳とミルクで育った子の違いとは?知能・免疫の科学的根拠と真相
なぜここまで「母乳でなければならない」という強烈な固定観念が根付いてしまったのでしょうか。その構造的背景を紐解くと、公衆衛生の歴史的文脈と日本の家族文化の歪みに行き当たります。
1970年代から1980年代にかけて、世界保健機関(WHO)やユニセフが「母乳育児推進」を強力に打ち出した最大の理由は、開発途上国における不衛生な飲料水問題でした。粉ミルクを不衛生な水で溶かすことによる深刻な感染症や、高価な粉ミルクを薄めて飲ませることによる乳幼児の栄養失調を防ぐため、安全で無菌の母乳が「命を救う最善策」として世界中に啓発されたのです。
ところが、世界トップクラスの衛生環境と水道インフラを備えた日本において、この国際方針が「母性愛の証明」という精神論へと変質して受容されてしまいました。昭和から平成にかけて一部で流布した「母原病(子どもの病気や問題行動は母親の育て方に起因するという非科学的主張)」の言説とも結びつき、「母乳が出ない=愛情不足」「ミルクに頼るのは母親の手抜き」という歪んだ道徳的規範が形成されてしまったのです。
医学的根拠(エビデンス)に立ち返れば、母乳神話が主張する「ミルク児はキレやすい」「情緒が不安定になる」といった説を裏付ける統計データは一切存在しません。根拠を欠いた精神論によって、産後のホルモンバランスが乱れた母親を追い詰める風潮は、現代の周産期医療において明確に否定されています。