孤高の鬼才・根津甚八の凄絶なる軌跡:黒澤明が惚れ抜いた男の真実
黒澤作品での躍進と並行し、彼は時代劇の枠組みにとどまらない多面的な表現力を発揮していく。1982年に公開された柳町光男監督の傑作『さらば愛しき大地』での演技は、映画批評家たちに衝撃を与えた。
鹿島臨海工業地帯を舞台に、覚醒剤に溺れて自滅していくダンプ運転手を怪演。狂気と虚無の狭間で揺れる男の哀切を凄まじいリアリティで体現し、キネマ旬報主演男優賞を受賞する。時代劇で見せる重厚な所作とは一転、泥臭い人間の業を生々しく露出させた演技は、彼のキャリアにおける一つの到達点となった。
一方で、東宝配給のメジャー作品から単館系の意欲作まで幅広く出演。直線的な主役のみならず、歪んだ内面を持つ複雑なバイプレイヤーとしても映画界で唯一無二のポジションを確立していく。どんな作品においても、彼が画面に登場するだけで空気が緊張感で引き締まるのだった。