なぜ地面を掘った?竪穴式住居の驚くべき科学と知られざる縄文の知恵
竪穴の底で暮らす上で、現代人が真っ先に疑問に思うのが「雨水による浸水や湿気」と「室内で火を焚いた際の煙害」です。この二大課題に対しても、当時の人々は精緻な工夫を凝らしていました。
まず湿気と雨水対策として、住居の周囲には排水溝(周溝)が掘り巡らされ、壁際からの雨水の侵入を徹底的に防止していました。床面には粘土を敷き詰めて固く叩き締めたり、火で焼き固めて防水性を高めた痕跡も多数発掘されています。さらに、中央に設けられた「炉(ろ)」の存在が防湿の主役を果たしていました。火を焚き続けることで床全体の湿気が飛び、室内は常に乾燥した衛生的な状態が保たれていたのです。
冬の厳しい寒さを凌ぐ暖房であり調理場でもあった炉ですが、一歩間違えれば一酸化炭素中毒や煙の充満を招きます。これを解決したのが屋根上部に設けられた「煙出し」の構造です。温められた煙が屋根の傾斜に沿って自然に上昇し、上部の隙間や妻部の小窓から抜けていく気流設計がなされていました。室内に漂う適度な煙(木酢液成分やスス)は、茅葺き屋根の内部を燻蒸してカビや害虫の発生を防ぎ、木材の腐食を抑えて建物の寿命を延ばすという高度な副次的効果も生み出していました。