木嶋佳苗「かなえキッチン」の全貌|男を魅了した料理レシピと現在
事件から長い年月が経った現在、ネット上では木嶋佳苗のブログ魚拓やテキストログが断片的に転載され、「完璧な料理の天才」「男を意のままに操る希代の魔女」といった一種の神話めいた語られ方をすることがあります。しかし、一次資料や実際の捜査記録を検証すると、いくつかの決定的な誤解が存在します。
第一に、「彼女の料理はすべてプロ級のオリジナルレシピだった」という誤解です。確かに調理技術自体は高かったものの、ブログに掲載されていた華やかな料理の多くは、有名料理研究家のレシピ本やフランス菓子の教本の手順を忠実にトレースしたものでした。彼女の卓越していた点は「独創性」ではなく、「世間の男性が『家庭的で上質』と感じる記号を完璧に再現し演出する能力」だったのです。
第二に、「外見のコンプレックスを料理で埋めていた」という見方ですが、本人の手記や裁判での発言を振り返ると、彼女自身は自らの容姿や女性としての魅力に絶対的な自信を持っていました。法廷で見せた「男性を喜ばせることにかけて、私ほどの才能を持つ女性はいない」という趣旨の傲岸不遜な態度は、単なる劣等感の裏返しではなく、他者を支配するための冷徹な選民思想に基づいていたことが浮き彫りになっています。