小説『国宝』藤駒のその後と結末|喜久雄との愛憎と娘の真相
藤駒のその後を語るうえで欠かせないのが、喜久雄との間に生まれた娘・綾乃(映画版等の表記:彩乃)の存在です。喜久雄の血を半分受け継いだ少女は、平穏とは程遠い思春期を過ごすことになります。 父親の顔を知らず、周囲から「芸妓の私生児」という好奇の目に晒されて育った綾乃は、中学・高校時代に激しくグレて不良少女の道へと足を踏み入れます。母・藤駒への反発と、存在すら知らされない父親への憎悪が、彼女を非行へと走らせたのです。 そんな綾乃の人生を決定的に変えたのが、喜久雄との秘密のドライブでした。喜久雄が真っ赤なオープンカーを調達し、助手席に不良少女となった我が子・綾乃を乗せて疾走する場面は、作中屈指の名シークエンスです。 喜久雄は父親ぶった説教など一つもせず、ただ隣で前を見据え、風を切りながら自らの生き様を背中で語りました。その圧倒的なオーラと、言葉を超えた不器用な情愛に触れた綾乃は、自らの血に流れる表現者の業を受け入れます。 母・藤駒の他界後、綾乃は持ち前の負けん気と聡明さを爆発させ、驚くべき転身を遂げます。不良少女の殻を脱ぎ捨てた彼女は、自らの才能を武器に実業界・クリエイティブの世界へと飛び込み、海外を拠点に大成功を収めるのです。「名優・立花喜久雄の隠し子」という重荷を自らの力で羽ばたく翼へと変えた綾乃の出世は、藤駒の愛が決して無駄ではなかったことを証明する爽快な救いとなりました。