感動を仕掛ける名匠・前田哲の演出術!名作の裏側と最新の配信動向
実話に基づく映画化ほど、作り手の倫理観とバランス感覚が試される舞台はない。筋ジストロフィーを患いながらも、ボランティアたちにワガママ放題を言いながら自立生活を送った実在の男性を描いた『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』において、前田監督は大泉洋という稀代の表現者と真正面から組み合った。
福祉や障害をテーマにした作品にありがちな「美談化」や「過度な同情」を徹底的に排除した。夜中に突然「バナナが食べたい」とボランティアを困らせる主人公の姿を、どこまでも人間臭く、時に滑稽で、しかし強烈な生命力に満ちた存在として描ききったのだ。
現場では大泉洋とディスカッションを重ね、キャラクターの持つ狡さや弱さ、その裏にある孤独を一切誤魔化さずにフィルムに焼き付けた。重厚なテーマを極上のエンターテインメントへと昇華させたこの作品は、前田監督がコメディとリアリズムを自在に融合できる稀有なストーリーテラーであることを証明した一作といえる。