小野賢章とハリー・ポッター10年の軌跡|声変わり危機と抜擢の真実
すべてが始まったのは2001年、小野賢章が小学6年生(当時12歳)のときでした。劇団ひまわりに所属し子役として活動していたものの、当時は目立った代表作があったわけではありません。オーディション参加のきっかけは、熱心な映画ファンだった母親が募集を見つけ、「記念に受けてみたら」と応募書類を送ったことでした。
当時の特番インタビューや本人の手記によると、小野自身は世界中で社会現象を巻き起こしていた原作小説『ハリー・ポッターと賢者の石』の存在をまったく知らなかったと明かしています。会場に集まった多くの子役たちが原作を読み込み、ハリーになりきろうと気合を入れて芝居を作り込むなか、小野は事前知識ゼロの状態でマイクの前に立ちました。
この「作為のなさ」こそが、本国の制作陣と音響監督を射止めた最大の要因でした。原作者J.K.ローリングが描いたハリーは、決して選ばれし天才児ではなく、過酷な環境で育った孤独で素朴な少年です。演技を作らず、台本に書かれた言葉を素直な呼吸で発する小野のナチュラルな声質と佇まいは、本国イギリスでダニエル・ラドクリフが選ばれた理由と奇跡的なまでにシンクロしていました。演出側は「飾らない普通の少年の声」を求めており、無欲で挑んだ小野のプレーンな存在感が、数千人規模の候補者のなかから彼を主役へと押し上げました。