名馬主・近藤利一の遺産と真実|武豊との確執・和解から愛馬の現在まで
近藤利一氏の馬主人生を語る上で欠かせないのが、当代屈指の名手・武豊騎手との濃密かつ複雑な人間関係です。1999年、アドマイヤベガでダービージョッキーとダービーオーナーの栄冠を分かち合い、強固な信頼関係で結ばれていた両者ですが、2007年前後を境にその関係は急速に冷却化しました。
転機となったのは、アドマイヤオーラやアドマイヤムーンといった有力馬の起用方針を巡る意見の食い違いでした。勝負に一切の妥協を許さない近藤氏の熱情と、騎手としての矜持を持つ武豊騎手との間に生じた見解の相違から、およそ10年以上にわたって近藤氏の所有馬に武豊騎手が騎乗しない「事実上の絶縁状態」が続くことになります。
しかし、ドラマは2019年の夏に訪れました。末期の病魔に侵され余命宣告を受けた近藤氏は、みずからの意志で武豊騎手を病室へと招いたのです。病床で対面したふたりは、長年のわだかまりを水に流し、互いに涙を流しながら手を取り合いました。この場で近藤氏は、セレクトセールにて当時の当歳馬史上2位となる約5億8000万円で落札した期待馬・アドマイヤビルゴの主戦騎乗を武豊騎手に託したのです。惜しくもデビュー前に近藤氏は旅立ちましたが、2026年1月の新馬戦で見事に勝利を飾った武豊騎手は、空を見上げて亡きオーナーへ感謝と追悼を捧げました。