悪名高き拷問具「苦悩の梨」は実在したか?歴史に潜む戦慄の嘘

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実在の証拠に乏しい器具が、なぜこれほど確固たる「中世の記憶」として定着したのか。その背景には、19世紀ヴィクトリア朝時代に吹き荒れたゴシック趣味と、残酷な歴史を娯楽化する商魂があった。

当時、カトリック教会による過酷な異端審問を「野蛮で遅れた過去」として糾弾し、自らの近代性を際立たせようとするプロテスタント諸国のプロパガンダが活発化していた。そこに目をつけたのが、巡回見世物や民間博物館の興行師たちだ。ロンドン塔をはじめとする歴史的建造物にまつわる陰惨な伝説を好む大衆を相手に、鍛冶屋が仕立てた偽造の拷問具が次々と「発掘」された。現代でも各地の中世拷問博物館に並ぶ展示品の多くは、19世紀の職人が作り上げたフェイクや、正体不明の古い日用品を拷問具に仕立て直した産物である。苦悩の梨は、野蛮な中世を渇望した近代人の手によって捏造されたプロップ(小道具)だったのだ。

中島 亮太

中島 亮太

写真家・フォトエディター

シンプルで洗練された住まいづくりとインテリアコーディネートのアイデアを提案しています。