東山魁夷が白馬に込めた意味とは?名作『緑響く』の誕生秘話と心の祈り
白馬連作の中でも最高傑作と名高いのが『緑響く』(1972年)です。この作品のモチーフとなったのは、長野県茅野市の八ヶ岳山麓に位置する御射鹿池(みしゃかいけ)。農業用のため池として作られたこの場所の、針葉樹林がエメラルドグリーンの水面に鏡像となって映り込む幻想的な景観に東山魁夷は深く心を奪われました。
『緑響く』の見どころは、画面全体を支配する深遠な緑の階調と、水辺を一頭の白馬が左から右へと静かに歩を進める構成にあります。北欧の作曲家シベリウスのピアノ曲やヴァイオリン協奏曲の清澄なメロディが心に鳴り響いていたと本人が語る通り、絵画でありながらまるで静謐な音楽が聴こえてくるような共感覚を鑑賞者に与えます。
一方、同年に描かれた『白馬の森』では、林立する白樺やブナの木々の隙間に佇む白馬が描かれています。縦に伸びる樹木の垂直のリズムと、横を向いて静止する白馬の対比が見事な緊張感を生み出しています。いずれの作品においても、白馬は決して誇らしげに中央に君臨するのではなく、広大な自然の営みの中に控えめに寄り添う存在として描かれている点が、東山芸術の謙虚さと品格を際立たせています。