クラッシュシンドロームの真実|救助直後に急変する理由と現場の救命鉄則
SNSやインターネット上の情報には、災害時の救助に関して極めて危険な誤解が散見されます。その最たるものが、「挟まれている人を見つけたら、周囲の人間を集めて何が何でも即座に引っ張り出すのが最善である」という思い込みです。
もちろん、直後に火災が迫っているなど現場の切迫度が高い場合は緊急避難的な救出が優先されます。しかし、二次災害の危険がない安定した環境において、大腿部や両脚を数時間挟まれていた被災者を医療サポートなしに力任せに引き出す行為は、自らの手で「毒素の堰」を外して心停止を招く引き金を引くことと同義です。善意から出た行動が、結果として被災者の寿命を縮めてしまうという悲劇が、過去の災害で繰り返されてきました。
また、「止血帯(ターニケット)で脚の付け根を強く縛ってから助ければ毒素が回らない」という言説も一部で広まっていますが、これは極めて高度な判断を要します。不完全な緊縛は静脈血の戻りだけを止めて動脈血を送り込み、患部コンパートメント圧力を急上昇させて壊死を加速させます。完全に縛れば毒素の流入は一時的に防げますが、縛った四肢は切断を余儀なくされる可能性が跳ね上がります。日本救急医学会などのガイドラインでも、非医療従事者による安易な緊縛処置は原則として推奨されていません。