岡田茉莉子93歳の現在と凛たる美学|吉田喜重監督との軌跡を追う
1957年に松竹へ移籍した岡田茉莉子は、看板女優として過密なスケジュールの中で年間十数本もの作品に出演する超多忙な日々を送ります。その中で彼女の演技者としての深みを決定づけたのが、日本映画の巨匠・小津安二郎監督との出会いでした。
小津監督による1960年の『秋日和』、そして小津映画の遺作となった1962年の名作『秋刀魚の味』での演技は、今日でも国内外で映画研究の対象となっています。『秋刀魚の味』において岡田茉莉子が演じたのは、主人公の長男(佐田啓二)の妻・秋子役でした。団地住まいの若夫婦の生活感、夫に対する小気味の良い小言、そして舅(笠智衆)に対する絶妙な気遣い——。小津映画の伝統的な「おっとりとした女性像」に、戦後新時代のドライで聡明なリアリティを吹き込んだ演技は、巨匠からも絶大な信頼を獲得しました。
映画関係者の証言によると、細部の所作や台詞のトーンに極度の精密さを求める小津演出に対し、岡田茉莉子は持ち前の知性とリズム感で見事に応え、小津をして「茉莉子ちゃんは勘がいいから助かる」と言わしめたと伝えられています。